RESEARCH
研究概要
量子線物性工学研究室では、エネルギー粒子照射に伴う材料の放射線照射効果 および電子線・X線の散乱現象を利用した原子レベルでの状態分析法を用いた研究を行っています。
現在進めている研究は、大きく分けると次の3つに分類することができます。
- 原子力材料の照射効果に関する研究
- ナノ粒子の構造と機能発現に関する研究
- シンクロトロン光を用いた材料中原子の局所構造と電子状態に関する研究
原子力材料の照射効果に関する研究
電子、イオン、中性子などの放射線が材料に照射されると物質中の局所領域にエネルギーが付与され特徴的な物性の変化や構造変化を引き起こします。これらは照射効果と呼ばれます。放射線照射に伴う材料の照射効果の機構を明らかにすることは、例えば現在稼働している原子炉の安全性の確保 や、将来の核融合炉の実現に直接繋がる重要な研究課題です。結晶性物質の照射効果を解明するために、放射線照射により形成されるナノサイズの欠陥の形成・成長過程を、透過電子顕微鏡を用いて直接観察することにより研究を進めています。
具体的な研究テーマは以下のとおりです。
- セラミックスの照射損傷機構に関する研究
- 電子線照射した蛍石型酸化物中の転位ループの形成・成長挙動に関する研究
- 高速重イオン照射したセラミックス中のイオントラックの原子スケール構造と損傷蓄積過程に関する研究
- 電子線照射下その場カソードルミネッセンス測定によるセラミックス中の点欠陥蓄積過程に関する研究
図1 超高圧電子顕微鏡による電子線照射実験
図2 電子照射により形成されたCeO2中の照射欠陥の原子分解能像
ナノ粒子の構造と機能発現に関する研究
ナノテクノロジーの中心材料であるナノ粒子は、次世代のエネルギー生産、精製、貯蔵、変換において重要な材料であり、近年盛んに研究が行われています。ナノ粒子のサイズ、形状、組成は、ナノ粒子の持つ機能に大きな影響を与えるため、ナノ粒子の構造と機能との関連性を明らかにすることは重要な研究課題となっています。我々の研究グループでは、最新の電子顕微鏡を用いて原子スケールの構造解析を行い、ナノ粒子の機能発現のメカニズムに関する研究を他大学の研究グループと連携しながら行っています。またナノ粒子にレーザーを照射することにより形状を制御する研究も行っています。
具体的な研究テーマは以下のとおりです。
- レーザー照射した金ナノロッドの変形プロセス
- 貴金属触媒合金ナノ粒子の触媒機能のナノ粒子の形状効果
- Pd/Ptコアシェルナノ粒子の水素処理による固溶体化のメカニズム解明
- 金ナノ粒子のプラズモンEELSイメージング
- ナノ粒子の電子線トモグラフィー法による形状評価
図3 ナノ秒パルスレーザーを照射した金ナノロッドの連続変形
図4 PtNi合金ナノ粒子の原子分解能HAADF-STEM像
シンクロトロン光を用いた材料中原子の局所構造と電子状態に関する研究
シンクロトロン光を用いたX線吸収微細構造(XAFS)観測による構造解析から、電池材料や透明導電材料の結晶構造や電子状態の研究を行っています。実験スペクトルは、第一原理法による理論スペクトルを用いて詳細に解析を進めます。
具体的な研究テーマは以下のとおりです。
- 透明導電セラミックス(Ga2O3)中Ga原子の局所状態解析
- バナジン酸ガラスの伝導機構の解明
- 熱電材料のXAFS測定
- シンクロ型LPSO構造マグネシウム合金の熱処理過程のその場XAFS測定
- Pd合金ナノ粒子の水素吸蔵・放出過程のその場XAFS測定
図5 シンクロトロン光ビームラインでのXAFS測定@ 九州シンクトロン光研究センター
図6 透明導電セラミックス(Ga2O3)中Ga原子の局所状態の解析例.