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量子多体効果に起因する現象の多様性、極限環境下で現れる普遍性の実験的探究
<主要研究テーマ>
本研究では、軌道自由度が残っているにもかかわらず、絶対零度まで軌道秩序が起きない場合どのような現象が観測されるのか、という問題を調べている。磁気秩序した物質を非磁性物質で希釈していくと、その濃度によってパーコレーション・スピングラス・グリフィス相・近藤効果といった問題に直面し、これらはいずれも物性物理学が進歩する上で重要な問題となってきた。一方、軌道系については実験的、理論的にもその希釈系の物性については未解明な問題が非常に多く、これを実験的に解明することを目指している。
○装置開発
我々の研究室では、装置開発も重要なテーマの一つです。目的を達成する為に必要な装置を開発するには、設計、工作、テスト等の一連の過程で、高度な思考能力が要求されます。従って、独創的な研究を行う上でも重要ですが、教育的効果も高いテーマです。
以下で個々のテーマについて簡単に説明しています
強相関物質を理解する上では、電子の持つ「電荷」「スピン」の自由度に加えて「軌道」の自由度が極めて重要である。軌道自由度とは、エネルギー準位が縮退した基底状態において電子がどの軌道をとるかという自由度である。温度を下げていくとこの縮退した軌道自由度は何らかの相互作用で取り除かれる。3d遷移金属化合物ではしばしば格子歪みと結合することでその自由度を失う。その例としてヤン・テラー効果などが上げられる。一方、希土類金属やアクチナイド金属などのようにf 電子を持つ場合、合成角運動量J = L+ Sが良い量子数となるため、軌道自由度は四極子モーメントの自由度で表される。したがって軌道秩序は四極子モーメントの秩序化ということになる。
ここでf電子物質の特徴についてもう少し詳しく説明する。4f あるいは 5f軌道は閉殻構造の5s, 5p あるいは6s, 6p 軌道に遮蔽されている。したがってそれら軌道は非常によく局在することになり、軌道自由度つまり四極子自由度が格子系などの影響を受けず低温まで残ることがある。実際CeB6 などのf電子系化合物では格子変形やスピン系の秩序を伴わず、四極子モーメントが独立に秩序化することが確認されている。つまりf電子系物質に注目することで、軌道自由度に起因する物理現象を明らかに出来る可能性がある。
本研究室では特に結晶場基底状態に非磁性のΓ3 2重項型の四極子モーメント自由度を持ち、TQ=0.43 Kで反強四極子秩序するPrPb3に注目し研究を進めている[1]。反強四極子秩序とは磁性体で見られる反強磁性秩序に対応して四極子モーメントが交互に並んだ状態である。これを非磁性のLaイオンで置換したPrxLa1-xPb3を試料として用い、La濃度を0≦x≦1と変化させながら、この物質の極低温物性を調べてきた。これまでの研究によりLaの濃度の変化させることで、四極子秩序状態、四極子モーメントのグラス状態を示唆するランダム二準位系が出現することを報告している[2]。さらにPr濃度が5%以下の非常に希薄領域で四極子近藤効果の出現を強く支持する非フェルミ液体的な振る舞いを、実験的に初めて見出している(図1)[3,4,5,6]。またこの四極子近藤効果の一般性を探るため、他のΓ32重項物質においても研究を進めている[7]。

図1 Pr0.05La0.95Pb3の非線形磁化率に見られる異方性。[100]方向における
理論計算からの大きな逸脱が、伝導電子による四極子のスクリーニングを強く
示唆している。[7]
<参考文献>
[1] Y. Sato, H. Morodomi, K. Ienaga, Y. Inagaki, T. Kawae, H.S. Suzuki, and T. Onimaru : J. Phys. Soc. Jpn. 79, 093708 1-4 (2010).
[2] T. Kawae, M. Shimogai, M. Mito, K. Takeda, H. Ishii and T. Kitai : Phys. Rev. B 65, 012409 (2002).
[3] D.L. Cox : Phys. Rev. Lett. 59, 1240 (1987).
[4] T. Kawae, T. Yamamoto, K. Yurue, N. Tateiwa, K. Takeda and T. Kitai : J. Phys. Soc. Jpn. 72, 2141 (2003).
[5] T. Kawae, K. Kinoshita, Y. Nakaie, N. Tateiwa, K. Takeda, H. S. Suzuki and T. Kitai : Phys. Rev. Lett. 96, 027210 (2006).
[6] T. Kawae et al. : J. Phys. Soc. Jpn. 82 (2013) 73701.
[7] T. Kawae, C. S. Li, Y. Yoshida, K. Takeda, T. Asano, and T. Kitai : J. Phys. Soc. Jpn. 74, 2332 (2005).
重い電子系や高温超伝導など、電子相関を起源とする数々の量子多体現象の解明は、物性物理学の中心課題の一つです。その中で近年注目すべき現象として、非磁性金属のナノ粒子化により出現する強磁性転移[1]や、強磁性金属の単原子コンタクトにおいて観測される近藤効果[2]など、遷移金属をナノサイズ化することによって発現する電子相関現象が挙げられます。
これらの現象は、ミクロな系は構成要素が単純なため電子相関を考慮しない簡単なモデルに基づいて物性が説明出来るという、ランダウア公式をはじめとする従来の考え方と大きく異なるものです。
これらについて解明するため、我々は非磁性金属ナノサイズ化による強磁性転移機構、ナノデバイスの物性解明を目的に、試料ワイヤサイズをバルクから原子サイズまで精密に制御できる実験装置を開発し、研究を行っています。
これまでの代表的成果として以下のようなものがあります。
1.非磁性金属Pdをナノサイズ域まで細くしていきながら磁気抵抗を同時に測定することで、非磁性から強磁性への転移が検出できることを示しました[3]。
2.強磁性金属の単原子コンタクトにおいて観測される近藤効果をサイズ効果という観点から理解するために、Niナノワイヤのサイズを連続的に変化させながら、その物性を調べました。これまでの実験より、強磁性と近藤効果の共存を強く示唆する結果を得ています[4]。
<参考文献>
[1] T. Shinohara, T. Sato, T. Taniyama: Phys. Rev. Lett. 91,197201(2003)
[2] M. R. Calvo et al.: Nature 458, 1150 (2009)
[3] K. Ienaga et al.: Appl. Phys. Lett. 101, 123114 (2012)
[4] K. Ienaga et al.: Phys. Rrev. B 86, 064404 (2012)
準備中
�@ MPMS用3Heインサート
カンタムデザイン社製SQUID磁束計に3He排気型極低温実験用インサートを組み込むことで、最低温度T=0.36Kからの高精度磁化・帯磁率測定を行うことが出来るようになりました。[1]
この極低温インサートは、SQUID磁束計の持つ超��感度(カタログ値1×10-8 emu)を落とすことなく、非常に簡単に着脱できるという特徴があります。これを用いてf電子物質[2]やスピンギャップ物質[3]の極低温磁化を測定しています。
図1左は3Heインサートの概略図。ロータリーポンプによる3Heの排気減圧で0.5Kまでの測定が可能。図2右のチャコールを利用した
吸着ポンプの併用で最低到達温度は0.38K。冷却時間は図2に示すように、室温からおよそ3〜4時間。図3はアルミの微少試料を用いて
超伝導転移を観測した例。縦軸から本来のMPMSの感度を保持して測定可能であることがわかる。

図1 3Heインサート(左)と吸着ポンプ付きサンプルロッド(右)の概略図

図2 冷却時間と温度 図3 3Heインサートを用いた観測例。Alの超伝導転移
<参考文献>
[1] Y. Sato et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 52 (2013) 106702
[2] Y. Sato et al.: J. Phys.: Conf. Ser. 400 032080 (2012)
[3] Y. Sakamoto et al.: J. Phys. : Conf. Ser. 400 32077 (2012)
[4] 佐藤由昌 他 固体物理49(通巻579号)(2014)